ある男の話
沖縄にはたくさんの伝説、民話が伝わっています。
わたしが知っているのは、沖縄ツアーで人気のある糸満に伝わる民話。
それはとても独特で面白いものなのでここで少し紹介しようと思います。
あるところに、鮫島という男がいました。
鮫島は母や妻から渡された心づくしの手土産を携えて、一年ぶりに糸満へやって来た。
美殿はなつかしく出迎え、家に招じ入れると、新妻も顔を出し、夫婦並んで挨拶した。
鮫島は新世帯のお祝いを述べた後、つづいて、去年、鹿児島の家へ帰った夜の出来事を打ち明けて、家内を守って同余していてくれた母上とも知らず、あわや抜刀に及ぼうとして、ふと美殿にきいたあの金言に思い当り、ぐっと踏みとどまることが出来た。
もしもきいていなかったら、私はすんでのところ、大罪を犯しただろう。
今頃は報いを観面に受けて、うかぶ瀬もない奈落の底を、這いずり回っていたのではあるまいか。
「有難うよ、美殿!おぬしのことは、一生恩に着る!おぬしは命の恩人だ!」
鮫島が頭を下げると、美殿は「とんでもねえ!」と奥から用意の金を運んで、鱗齢の前に耳を揮えて並べ、深々と頭を下げた。
「あのことがお役に立ったとすれば、お礼はわしの申すべきことどうぞお頭をお上げ下さりませ。
わしは旦那様から命を助けられ、懸命で働いて、お返しの金の外、蓄えも少々出来るようになり、女房も迎えました。お陰さまです。どうぞこれをお手許へ」
金子を差し出すと、鮫島はそれを押し戻した。
美殿は「とんでもないこと、わしがいただいては、筋が通りません」と突っ返す。
金の処置に困りはてた両人は、先に美殿が隠れていた洞窟の、岩根のあたりを掘り返してそこに埋め、ふたりの志を永く残すことにした。
伝えきいた糸満の人々は、ここの岩を白銀岩と名づけ、神を迎えて祠を建て、鎮守として尊信するに至った、といいます。